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1 何故未然に防がなければならないか
労働者とのトラブルは、別のところでも述べますが、経営者の方が思っておられる以上に会社にとって不利であることが多いです。
これは日本の労働法制が会社による労働者の搾取を許さないことを主目的とし、労働者保護に手厚いことが理由です。
さらに、中小企業では労働者とのトラブルは会社全体にかかわる問題になります。
というのも中小企業では、トラブルを起こしている従業員に他の従業員が同調すれば、会社対多数の労働者という構図の大問題になりかねません。
逆に、トラブルを起こしている従業員に対して、他の従業員が批判的な場合でも、不協和音による士気の低下は免れません。
したがって、労働者とのトラブルは未然に防止するに越したことはありません。
2 トラブル防止の方法
防止の方法は就業規則を中心とした制度としての防止と、トラブルになりそうな案件について適切に対応することによる防止が挙げられます。
まず、就業規則による防止についてですが、多くの中小企業で「就業規則がない」「あるが、10年以上前のもの」「昔、税理士さんにもらったひな形をそのまま使っている」という話をよくお聞きします。
就業規則は、例えば、規定がないと、不祥事を起こした従業員に対して懲戒することも難しい場面がありますので、しっかり検討して作成する必要があります。また、新しい法令や判例に合致するように作る必要があり、法令や判例を熟知した弁護士への相談をお勧めいたします。
また、対応によるトラブル防止の際にも、「会社の言い分、労働者の言い分、突き詰めればどちらが裁判では通るのか」を知らなければ、交渉を誤ります。トラブルを防止するためには、正しい法律知識が欠かせません。
例えば、経営者が、勤務不良の従業員に辞めてもらいたいと思っていても、裁判で到底認められないような解雇を申し渡せば、従業員とのトラブルは必至で、訴訟になった場合、会社の敗訴は免れません。
そこで、経営者の方が都度弁護士と相談をして、労働者の処遇問題について、適切なソフトランディングを目指すことが考えられます。
3 社会保険労務士との違い
社労士の先生方も労働問題のスペシャリストですが、弁護士に労働トラブルの防止を要請した場合、次のメリットがあります。
まず、弁護士に依頼するメリットは、トラブル防止が上手くいかず紛争になった場合、そのまま事情をよく知る弁護士が交渉、裁判の代理人になることができる点が挙げられます。
社労士の先生方にも労働紛争に関して一定程度の代理権限はあるのですが、交渉全般についての代理権がない場合があります。また、訴訟になった場合、社労士に訴訟の代理はできません。
このメリットは、労働者との交渉に際して「いざとなったら、出るとこ(裁判所)出ても構わない」という心理的余裕を生みますので、意外と重要です。
また、前述しましたが、弁護士によるトラブル予防には、「裁判になったらどうなるのか」という視点があるのが強みです。
この「裁判になったらどうなるのか」という視点は、判例の知識だけに限られません。例えば、先方が弁護士を使う可能性があるのか、裁判所に出廷する手間はどの程度あるのか、証人は確保できるのか、などの様々な事項を検討し、総合的に話し合いによる解決の「落としどころ」をアドバイスすることが可能です。こういった総合的なトラブル防止が弁護士特有の長所といえます。