経営状況が悪化したとき、賃金などの労働条件を変更したいと考える場面がしばしばあります。また、社歴の長い会社だと、先代社長が作った古い終身雇用、年功序列を前提とした賃金体系などがそのまま残っていることがあります。これを変更し、能力ある若い人にとって働き甲斐のある会社にしたいと思われる経営者の方もおられるでしょう。
しかし、労働条件の不利益変更は容易ではありません。
まず、そもそも労働条件は会社と従業員の契約によって決まったものですので、これを変更するには会社と労働者の合意があることが必要となり、これが原則です。
ただ、そうだとすると会社は全従業員と個々に合意しなければならず、合意した従業員と合意しない従業員がいる場合、どうなるのかという問題も起こります。
そこで、就業規則を変更して、画一的に労働条件を変更することが考えられるのですが、これも簡単ではありません。
労働契約法第10条も、就業規則による不利益変更が有効となるには、次の条件を満たすことを求めています。
- 変更後の就業規則を労働者に周知させていること
- 次の要素を総合的に判断し合理的かを判断することになります。紛争になった場合の注意点もここに集中します。
このページの目次
ア)労働者の受ける不利益の程度
⇒賃金を例にすれば、労働契約の中心なので厳格に判断されますが、基本給の減額などより家族手当の廃止などは、認められやすい傾向にあります。
イ)労働条件の変更の必要性
⇒例えば、会社経営が悪化していることなどが必要性として挙げられます。
ウ)変更後の就業規則の内容の相当性
⇒賃金減額の場合では、同業他社に比べてもまだ変更後の賃金が高いことが例として挙げられます。
エ)労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情
⇒労働者への説明状況や、粘り強く長期間交渉していた事実、労働者側の要求に応じて変更後の条項を改訂したような事実が重視されます。
これまでの判例を見ても、賃金や労働時間といった契約の中心部分についての不利益変更については会社に厳しい判断がされているように思います。
もっとも、不利益変更が完全に許されないかといえばそうでもなく、例えば、賃金体系の変更に伴い、労働者に不利益が出るような場面でも、定年延長に伴う措置であることや、労働者らへの説明、交渉が十分に行われていること、ほとんどの従業員が賛成しているなどの事情があれば不利益変更が認められている判例もあります。
このように不利益変更が認められるかは、注意点が多数あって、微妙な例も多く、途中で従業員とどの程度交渉してきたかなども問題となるため、変更の計画段階から、継続的なアドバイスを弁護士に求めることをお勧めします。