解雇ケーススタディ

中小企業は大企業のように多数の従業員がいるわけではありません。その中で仕事をしない、態度が悪い、挙句不祥事を起こすなどといった従業員がいると、会社全体がおかしなことになりかねません。

そこで、会社としては問題のある従業員を解雇したいと思われることがあると思います。

しかし、労働契約法16条には「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されており、簡単には解雇を許さない規定になっております。

会社が従業員を解雇しようとする場面はさまざまです。以下では、ケースごとに解雇が認められやすいのかなどをご説明いたします。

1 私生活上の不祥事

(1)私生活の問題

解雇ケーススタディ

私生活上の不祥事をもって、解雇をするのは難しい場合が多いのです。例えば、社内不倫などの男女トラブルを起こした従業員がいる場合、大企業であれば異動もありますので、時間が経てば会社内も平穏化することがほとんどでしょう。しかし、中小企業の場合はそうはいきません。どうしても社内の人間関係がぎくしゃくして、意思疎通が上手くいかなくなることがあります。そんなとき、経営者は、問題を起こした従業員に辞めてもらいたい、解雇をしたい衝動にかられることはあります。

しかし、犯罪でもない限り、私生活上の不祥事は、会社の業務を行うことと関係はなく、解雇はできません。

また、セクハラなどに該当しない場合は、社内での男女トラブルは当該従業員の私生活上の問題となるのが原則ですので、会社が口を挟むこと自体、難しいと考えるべきでしょう。

(2)犯罪に該当するとき

では、私生活において犯罪を起こした従業員についてはどうでしょうか。

これについてもケースバイケースと言わざるを得ません。「犯罪」と一括りに言っても、交通事故のような過失犯から、窃盗、痴漢などの故意犯(わざとする犯罪)まで範囲が広く、一概には決められません。

まず、一般的に過失犯の場合は、そのことをもって解雇等は難しいと思われます。過失犯というのは交通事故に代表されますが、社会生活をしている以上、一定の割合で発生させてしまうものだからです。他方、運送会社の運転手が重大な人身事故を起こしたような事案では、解雇も視野に入ってきます(もちろん、免許取り消しなどの就労能力の問題との兼ね合いがあります)。

他方、故意犯の場合、会社としてはその従業員を解雇したいと考えるのが通常です。故意犯は「わざと」犯す罪ですので、そのような人物が会社で働き続けてもらうことに経営者の方は抵抗があることでしょう。

また、犯罪によっては逮捕、勾留がなされ身柄拘束されてしまい、それなりの期間出勤ができません。就業規則に欠勤による解雇の規定がある場合、これに基づく解雇ができることがあります。

しかし、痴漢などの重いとはいえない事案で(※痴漢は憎むべき犯罪ですが、一般的には刑罰も罰金となることが多く、軽い犯罪に分類されます)、警察による身柄拘束もされていない事案では、解雇は簡単ではありません。就業規則の懲戒規定にも手がかりとなるのは「会社の名誉を害したとき」などの条項しかないことも多く、痴漢をした従業員が、罰金を払って手続が終わったような場合や、被害者と示談して不起訴になった場合、一般的に解雇は難しいでしょう。

もっとも、例えば、子供向けスイミングスクールのインストラクターが、勤務外とはいえ未成年者に痴漢事案を起こしたような場合、私は、たとえ会社が負けてしまうリスクがあるとしても、退職勧奨を行い、応じない場合は断固として解雇に踏み切るのが企業のセンス、経営判断ではないかと考えております。

また、最近では軽微な犯罪であれば、たとえ被疑者が罪を認めず否認していても、裁判所は長期の身柄拘束を避ける傾向があります。この場合被疑者となった従業員は、普通に出勤してきますので、欠勤による解雇などはできません。他方、被疑者については「推定無罪の原則」が働いており、本人も罪を否定していることから、起訴されたことのみをもって解雇も難しい状況です。

なお、このような場合に備えて、起訴休職の制度を設けている企業もありますが、起訴休職の命令が裁判で無効になってしまうこともしばしばあります。

2 能力不足

解雇理由 能力不足

経営者にとって、もっとも困るのは従業員の能力不足でしょう。せっかく採用した従業員が思ったような能力がなかったら、失望が大きいことでしょう。しかし、裁判所において能力不足を客観的に証明するのは難しく、例えば、コミュニケーション能力の不足などは「空気を読めない」「気が利かない」と言葉にすると簡単ですが、証拠として客観化するのが難しい項目といえます。客観的な証拠にならない以上、これらをもって、解雇をするのは実際のところ困難です。

ただし、コミュニケーション能力不足による仕事のミスが度重なる場合は、都度、注意を重ねてゆき、ミスの程度によっては戒告などの処分をするのが適切でしょう。また、度重なる懲戒処分をもって能力不足を立証し、解雇に至ることは皆無ではありません。

ただ、注意や戒告を重ねてゆくやり方は非常に経営者にとってストレスフルで、ともすれば厳しい言動につながりパワハラの問題を発生させかねません。ぜひ、弁護士を伴走者のように使って、アドバイスを受けてください。

3 経歴詐称

経歴詐称は解雇が認められる可能性が比較的高い解雇事由です。特に、業務に求められていた免許資格を有しなかったことや、募集要項に記載されている学卒基準を満たしていなかったことは解雇の理由となりやすいです。

もっとも、学歴については、採用選考の際に学歴が重要な基準とされていなかったような場合、学歴詐称をもって解雇にはできないとした裁判例も多数あります。したがって、学歴詐称による解雇の場合は、雇用時にさかのぼり、どのような選考、採用を行ったのかを具体的に検討する必要があります。

例えば、高卒も大卒も同時に同種の業務で採用しているような場合、学歴が選考の際の基準ではなかったと主張される余地があります。

他方、職歴については学歴の場合より広く解雇が認めらます。これは、中途採用は即戦力を求めていることが前提となっており、職歴は、雇用するか否か、労働条件をどのように定めるかを左右する重要な事項であることから、詐称は許されないという考えによるものです。

ただし、職歴についても、詐称すれば即解雇可能というわけではありませんので、ご注意ください。

また、経歴詐称は他の解雇事由(能力不足など)と比べて解雇が認められやすい傾向にあります。しかし、このような場合、経営者も強気になりがちで、普通解雇すべきところを懲戒解雇にしたり、解雇の前提となる従業員からの弁明の手続きを取らなかったりして、いらぬ紛争をまねくことがあります。時間は取らせませんので、弁護士に電話で確認をしてください。

4 経営不振

会社が経営不振に陥り、いわゆるリストラを断行しなければならないことがあります。そのときに用いられるのが整理解雇です。

しかし、単に経営不振というだけでは、整理解雇は認められません。次の4つの要素によって整理解雇の有効か無効かが決まります。

  1. 会社の維持継続するために人員の整理を行う客観的な必要性があること(整理解雇の必要性)
  2. 会社が解雇を回避するための努力を行ったこと
  3. 解雇の対象となる人選が合理的、客観的に行われていること
  4. 労働者と雇用主の間で事前に十分な協議、説明を行われたこと

の4つの要素を整理解雇の際には注意し、しっかり根拠づけを行ってゆくべきです。

具体的な内容を見ていきましょう。

まず、①整理解雇の必要性は、会社の経営悪化に尽きるのですが、単に悪化だけでは足りず、数値をもって説明できる必要があります。また、経営悪化が一時的なものではないことや、キャッシュフローの減少の状況、人件費以外の経費節減をした上でも人員整理がなされないと、倒産する可能性があることを明確に示すとよいでしょう。

解雇回避努力ですが、これは多岐に及びます。例えば、役員報酬カット、交際費の削減といった支出面の見直し改善が行われていることが必要となります。また、希望退職者の募集、新人の募集中止といった解雇より容易に取れる手段を試してみることも重要です。

人選の合理性については、人選の基準が公平であり、合理的であることが必要です。
具体的には年齢、勤続年数、勤怠状況、家族構成などを考慮して決定します。また、解雇回避の点ともリンクするのですが、解雇回避のための配属先変更ができないことなども考慮に入れることになります。他方、特定人を「狙い撃ち」したような基準を作ると、人選の合理性が一気に失われることがありますので、注意しましょう。

労働者との間の協議、説明についてですが、これもどの程度協議、説明を尽くしたら合格というようなものではありません。協議の回数だけ重ねるというアリバイ作りはかえって紛争を複雑にしかねません。協議にあたっては上記の③人選の基準を説明することはもちろんのこと、上記の①②の要素についても説明を行い、理解を求めることは必要となります。また、早期退職金による譲歩案の提示など、会社が突然、一方的に解雇したのではなく、会社にとっても解雇はやむにやまれぬ最後の手段であったことを客観的に示せるようにしましょう。

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