セクハラについて

1 セクハラとパワハラは全く違う

セクハラが発生した

パワハラとセクハラは企業内で起こる問題として並び称されることが多いのですが、我々、弁護士の目からすれば、両者にはとんでもなく大きな差があります。

まず、経営者の方にご理解いただきたいのは、経営している企業が性産業など一部の特殊な産業でない限り、セクシャルなことは会社の運営に必要がないということです。性的な冗談を言ったり、他人に性的な関心を示したりするというのは、会社業務を行う上で、全く必要ありません。

したがって、セクハラは、ほぼ常に「アウト」となってしまいます。

これに対して、パワハラは異なります。会社である以上、労働を命じる経営者と、労働を行う労働者の間には、必ず「力関係」が働きます。職務命令に従業員が応じない場合や職務遂行が不十分な場合、上長や経営者は従業員に苦言を呈したり、注意したりすることは当然のことです。確かに、経営者や上長に注意されることは、従業員からすれば、「おもしろくない」「不快な」話です。しかし不快だからといって、パワーハラスメントになるかというと、そうではありません。経営者が持っている指揮命令そのものの行使が、従業員にとって不快だからといってそれだけでパワハラになったのでは、経営は行いえません。指揮命令は労働という契約内容に当然含まれているものです。

ですから、従業員のパワハラ主張が認められるかは、ケースバイケースになることが多いのです。

2 セクハラが発生した場合

(1)被害者目線で解決にあたる

セクハラ被害の訴えがあった場合、必ず持っていただきたい視点が二つあります。まず、一つ目は被害者の目線を大切にすることです。

セクシャルハラスメントは、性犯罪といえるような深刻なものから、そこまでとは言えないようなものまであります。ただ、性的なことに関する感性は人によって異なり、一般的には軽微に思われるような事象でも、被害者は非常なショックを受けていることもしばしば見受けられます。

そこで、従業員からセクハラ被害を訴えられた場合、会社は「その程度のこと、、」と、これを軽視せず被害者保護の目線に立って慎重に対応する必要があります。

また、セクハラ事案の場合、裁判所は基本的には被害者の供述を信用する傾向にあります(被害者が羞恥心を押して裁判にしているのですから、信用性が高く評価されがちです)ので、会社もまずは被害者の言い分を中心に事案をとらえる必要があります。

調査にあたっては、被害者に対しては同性による聞き取りの方がよいか、なども被害者の意向、プライバシーを重視して、調査を行うべきです。また、被害者従業員からの聞き取りにあたっては、傾聴の姿勢を示し、被害者の述べることを否定したり、「加害者側の肩を持っている」と思われるようなコメントをしたりは避けましょう。

被害者からの聞き取りや調査の進め方は、一つ間違えると問題を爆発的に大きくしかねません。そのためセクハラ被害申告のなされた直後に、「第三者の視点」「専門家の視点」を入れることは非常に有益です。セクハラ申告があり次第、弁護士に相談し、調査の進め方、裁判になった場合どうなるのかなどのアドバイスを得ながら解決を目指すべきです。

(2)会社も加害者側であることを忘れない

セクハラ被害の訴えがあった場合、もう一つ持っておきたいのは、会社も加害者側であるという視点です。

会社は往々にして、セクハラ問題を加害者である従業員の素養の問題として考えてしまいがちです。確かに、今日のセクハラは上述の妄想型などは特にそうですが、加害者従業員と被害者従業員の人的なやり取りの中で生じることが多いといえます。そのような場合、会社としても、「それはプライベートの問題ではないか」と考えてしまいがちです。

しかし、被害者が、会社に相談をしていることからすれば、被害者は当該セクハラを業務に関して発生したものと考えていることが明らかです。自らの受けたセクハラをプライベートな問題と理解しているのであれば、被害従業員は会社に相談、申告はしないはずです。

そして、従業員が業務に関して、セクハラ加害を行った場合、会社は使用者責任(民法715条)による損害賠償を負担する可能性があります。

被害者従業員から会社が損害賠償請求を受ける場合、会社としては示談を目指すことになりますが、示談金はさまざまです。例えば、性犯罪というべき重大なセクハラの場合は数百万円に及ぶこともありえます。

したがって、セクハラ被害の訴えがあった場合、会社は、加害従業員の素養の問題として放置せず、自社が加害者側とされる可能性を前提に積極的に事案解決にかかわるべきです。

場合によっては、会社は弁護士に依頼して、被害者に対して、示談金を支払い、紛争を解決することも検討するべきです。

また、加害者従業員については、解雇を視野に置いた厳しい姿勢で臨むべきですが、解雇の基準を満たすか、どのような手続で行うかについても、弁護士に相談されることをお勧めします。

(3)言い分が食い違う場合

また、セクハラ被害の場合、加害従業員と被害従業員の言い分が食い違うことがあります。この場合、会社はどちらの言い分が真実か判断をしなければならないことになりますが、これは専門の訓練を受けた裁判官でも悩むような場面があり、会社が独自に判断を行うことは難しいといえます。

しかし、このような場合も、よほど被害者従業員の言い分が不合理で信用できない場合を除き、原則として被害者従業員の目線に立ち、判断をしてゆくべきであると考えております。最近は、体を触ったり、肉体関係を迫ったりする上司などはほとんど見なくなったものの、従業員間のSNSによる個人的な交流によるセクハラ問題が増えております。

また、減ったとはいえ、にわかに信じがたいようなセクハラ案件や場合によっては刑事事件になりかねないようなセクハラ案件もいまだに存在します。「まさか、そんなことありえないだろう」という先入観を捨てて、被害者従業員の述べることに耳を傾けるべきです。

弁護士は被害者従業員と加害者従業員の言い分が食い違う場合、「どちらの言い分が真実か」ではなく、「どちらの言い分が裁判所で認められそうか」との視点を持って、会社にとって「よりよい解決」を検討してゆきます。ですから、セクハラ問題で、被害者従業員と加害者従業員の言い分が食い違う場合、弁護士に相談し、ケースによっては弁護士を調査に参加させて、事案の解明を行うことをお勧めします。

3 セクハラの予防

セクハラの種類を知ろう。

セクハラ予防をするには、まずセクハラに対する理解が欠かせません。セクハラは現在次のように分類されています。

(1)環境型セクハラ

以前から、セクハラには環境型セクハラと対価型セクハラがあると言われてきました。

環境型セクハラとは、労働者を性的に不快な環境に置くことなど、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいうとされています(厚生労働省hpより)。

よく、職場にヌード写真を貼るなどの行為が例に挙げられることが多いですが、さすがにそのような極端な例は見られなくなりました。ただし、恋愛経験や交際相手との関係を労働者の意思に反して聞くなどといった行為も環境型セクハラとされかねませんので、注意が必要です。交際相手についての質問などは、コミュニケーションの一環として聞いてしまいがちですが、セクハラになる可能性があるので慎重な対応が必要となります。特に、上長や経営陣にあたる方は部下に対して一方的に交際相手の有無や結婚の予定を聞くのはやめておいた方がいいでしょう。せめて、部下から家族関係などを聞かれ、プライベートな話をする人間関係になってから、聞くのが穏当だと思います。

特に、最近は職場の人間関係とプライベートな人間関係を厳密に分ける人が増えていますので、交際相手などについての質問はコミュニケーションの一環にならない場面が増えているように思います。

(2)対価型セクハラ

対価型セクハラとは労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、 降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換 などの不利益を受けることです(厚生労働省hpより)。

例として挙げられているのは、出張中に上司が部下に肉体関係を迫り、拒否された場合、配置転換をするなどの事例です。

ただ、最近では肉体関係を迫る上司というのも、滅多に見聞きしなくなりました。ただ、次のような事案は増えているように思います。

【事案】

かねてからコミュニケーション能力が乏しく、上司や周囲と衝突しがちな部下に、性的な冗談を言ったところ、抗議を受けた。上司は「これくらいのことで怒らなくても、、、」と思いながらも、一応謝罪してその場は収まった。その後、社内で、当該従業員の勤務ぶり、協調性のなさなどが問題となり、配置転換を行おうとしたところ、従業員から、「性的な冗談に抗議したことへの腹いせで配置転換をさせられている」として、対価型セクシャルハラスメントを主張された。

性的な冗談に真剣に抗議してくる従業員は、冗談を言っている側からすれば、真面目すぎて融通の利くタイプではなく、場合によっては周囲と衝突しがちに見えがちです。そこで、協調性を理由に配置転換をしようとした際、以前に性的な冗談を言ったことでトラブルが生じていると、【事案】で述べたようにスムーズに配置転換ができないことがあります。会社としては、性的な冗談に従業員が抗議したことが配置転換の理由ではないのですが、こうなってしまうと、性的な冗談の件と配置転換と無関係であることを積極的に立証しなくてはならないような事態となり、会社が苦境に陥りかねません。

つまり、性的なやり取りを巡る拒否や抗議が従業員側から発生するような状況になってしまうと、その後の会社の人事運営に影響が生じてしまいかねません。ですから、性的な冗談なども慎む必要があります。

(3)交流型セクハラ

最近はこれに加えて、別のセクハラ類型が注目されています。

これはSNSなどを通じて従業員が個人的にやりとりをした結果、上司、先輩が部下、後輩との関係を「親密である」、あるいは「恋愛感情を持っている」と誤解し、セクシャルな内容のメッセージを送ったり、執拗にデートに誘ったりするなどのセクシャルハラスメントをいいます。

従来は上司などの地位を利用したセクハラ(対価型セクハラ)というべきものが、SNSの発達による人的な接点の増加によって、変容してきているといえるでしょう。

このタイプのセクハラは、私的な関係という側面があるため、上司、先輩といった側もついやってしまいがちです。社内での注意喚起をしておくのが時代の要請だと思います。

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