パワハラについて

1 どんなケースがパワハラになるのか

(1)パワハラ防止法が成立しました

パワハラ防止法

2019年5月、労働施策総合推進法の改正(労働施策総合推進法30条の2以下、通称:パワハラ防止法)が成立しました(なお、改正法で中小企業では2022年4月から施行されます)。

パワハラ防止法の特徴は、①パワーハラスメントとは何か?が明確になったこと、②パワーハラスメント防止の措置が定められたことにあります。

罰則がないため、効力が弱いなどと批判もされておりましたが、是正指導に応じない企業の公表もありえるため、企業にとっては厳しい法律です。また、法律が出来たことから、経営者のみならず従業員側の意識も高まり、これまでは我慢していたようなことが「パワハラだ」とされ、紛争化する場面が増えています。

(2)何がパワハラになるの

今回の法律改正(および公表された指針)で、パワハラとは

①優越的な関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること

とされました。

具体的には

  1. 優越的な関係を背景としたというのは、典型的には経営者と労働者、上司と部下の関係が広くあてはまります。

  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によりというのは、会社では、上司が部下に命令することは普通にあることを念頭に置いたものです。業務上、上司が部下に命令をする、すなわちパワーを行使するということは当たり前のことですので、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」という要件を入れたのです。

  3. 就業環境を害することとは、出勤が難しくなるような極端な事態を想定しているのではありません。上記①②の行為があった場合、就業環境は悪くなるのは当然であり、「就業環境は悪くなっていないからパワハラではない」というのは詭弁と判断されるでしょう。

また、パワハラの典型例として厚生労働省は次の6パターンを挙げています。

身体的な攻撃

すなわち、暴行・傷害行為です。なお、暴行とは殴る蹴るといったものだけではなく、たとえ当たらないようにしていたとしても、物を投げつける、身近なものを蹴り飛ばすなどの行為も暴行に該当します。よく机を叩いて怒っている上司などがドラマなどで描かれていますが、これも場合によっては暴行になりかねません。

精神的な攻撃

脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言が例として挙げられています。「なんか頭の病気あるのではないか」などといったものであったり、他の従業員が見ているところで晒し者にするような叱責をしたりすることもこれにあたります。

人間関係からの切り離し

仲間外れにしたり無視をしたりする場面がこれにあたります。例えば、わざと休憩時間を他の従業員と違う時間にしたりする場面などが例として挙げられます。
難しいのは、他の従業員との人間関係が悪くなってしまい、疎外されたような状態になっている従業員の場合です。会社としては他の従業員との人間関係が悪いため、人との接触の少ない業務などに異動させたいと考えるケースもあり、難しいところです。合理的な異動であることの根拠を示せるように準備が必要となります。

過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害がこれにあたるとされています。到底時間内に終わらないような過大な業務を命じたり、何ら教育指導をせずに未経験の業務を行わせたりして、出来ないことあげつらうような場面がパワハラとされています。

過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことがこれにあたるとされています。近年問題となったシュレッダー係なども過小な要求の例といえるでしょう。

個の侵害

私的なことに過度に立ち入ることがこれにあたります。若い従業員の失敗に対して、親を呼び出したりする場面がこれにあたります。若い従業員といえども、親に仕事のミスを伝えられていいというわけではありません。若い従業員の親が身元保証になっているからという理由で、過度な対応をしてしまいがちですので注意しましょう。なお、従業員が未成年者の場合は、一定の場合には親権者に連絡することはありえます。ただ、未成年者従業員の仕事上の問題を未成年者の親に申し入れると、親が過度に介入し、かえって問題を大きくする場合がありますので、注意が必要です。

2 パワハラがあった場合

パワハラがあった場合、会社は従業員に安全な職場を提供できなかった安全配慮義務違反による損害賠償責任、またはパワハラをした上司の雇用主としての使用者責任(民法715条)による損害賠償責任を負います。

パワハラが比較的単発的で、長期間でなければ、損害賠償額の相場は10万円から50万円程度になることが多いといえます。他方、パワハラが長期間に及んでいたりすると、賠償額は増加してゆきます。また暴力による従業員の怪我などがあると、刑事罰の問題も出てきます。

また、会社にとってリスクが大きいのは、パワハラを受けた従業員が、精神疾患を発症し、これが労働災害であると認められた場合です。

パワハラによる精神疾患が労働災害であると認められた場合は、通院期間や休職期間も長期に及び、会社の負担するべき責任は増加しがちです。また、労働災害による休職期間中は解雇が厳しく制限されていますので、問題も長期化します。

パワハラそのものによる精神疾患は耳を疑うようなイジメの事案でもない限り、簡単には認めらない傾向にありますが、厳しい叱責に長時間労働が併せてあったりすると、労働災害の認定がなされる可能性が高まっていきます。厳しい叱責や長い時間労働が日常的にあるようないわゆる「体育会系」の職場などでは注意が必要です。

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