このホームページでも繰り返し述べてきましたが、従業員を解雇するというのは法律上難しいことが多く、無理に解雇に踏み切ってしまうと、後で解雇が無効であったとされ、会社が大きなダメージを被ることがあります。
後日の紛争の避けるためにも、経営者は辞めてもらいたい従業員に退職勧奨(自主的な退職を進めること)を行い、これに応じてもらうことで、離職してもらうのが安全といえます。
そこで、自主退職の形式にこだわるあまり、執拗に退職勧奨を繰り返してしまうようなこともよくあります。
しかし、行き過ぎた退職勧奨は不法行為になってしまい、損害賠償を求められるようなこともあります。
最近の裁判例でも、大手航空会社が行った退職勧奨について「その頻度、各面談の時間の長さ、Xに対する言動は、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要である」として、従業員への慰謝料の支払いなどを命じたものがあります(全日本空輸(退職強要)事件、大阪地判平成11.10.18)。
このように法務部がしっかりした日本有数の航空会社ですら行き過ぎた退職勧奨をしてしまうこともあるのですから、オーナーの「どうしても辞めてもらいたい」という考えが強くあらわれる中小企業では、そのリスクは高いことでしょう。中小企業でも退職勧奨は慎重に行うべきです。
また、退職勧奨に応じて退職したはずの従業員が後日「退職を強制された。実質は解雇だ」などと主張し、解雇無効の訴えをしてくることも珍しくありません。
もっとも、どの程度までやると「社会通念上許容しうる範囲をこえ」「違法な退職強要」になるのかは、その従業員の地位、これまでの振る舞いなどとも関連し、ケースバイケースと言わざるを得ません。
そこで、退職勧奨をする前に、また、退職勧奨をすすめながら、弁護士のアドバイスを受け適切な退職勧奨を行うべきです。
また、従業員が退職勧奨に応じてくれる場合も、退職合意書の作成などを弁護士に依頼することで、後の紛争を避けることができます。