予防を尽くしても、会社が労働トラブルを抱えてしまうことはよくあります。もっとも、トラブルといっても、労働者個人が問題提起してくるもの、労働者が弁護士に委任し弁護士から請求がなされているもの、さらには労働審判、労働訴訟が提起されているもの、と場面がさまざまです。また、場合によっては労働者が労働組合に加入して団体交渉を求められるということもあります。
一般的には、在職中の労働者については、労働者個人からの問題提起が先行し、妥結にいたらないと弁護士を介する場面、裁判(労働審判、訴訟)の場面へと移行します。退職した労働者の場合は、いきなり弁護士から内容証明郵便が送付されていることがあります。
ここで注意していただきたいのは、労働者個人からの問題提起や請求が行われた場合です。
弁護士を代理人としない労働者個人による請求が行われた場合、対応の煩わしさから、経営者が「弁護士を会社の代理人にして対応しよう」と考えることがあります。
しかし、会社が弁護士を代理人にすると、労働者側も構えてしまい、弁護士に委任する可能性が高まります。そして、労働者側に弁護士がついた場合で、かつ、会社が何らかの支払いをしなければならないような事案の場合、労働者は、「自分が費やした弁護士費用を除いた幾らが自分の手元に残るのか?」を考えるのが人情というものです。
そのため、会社が早々に弁護士を代理人にしたため、労働者側にも弁護士が就き、その結果、労働者の求める和解金の金額が増加するというジレンマがあります。
そこで、弁護士を使わず、労働者が個人で請求をしている場合は、経営者や上司が、弁護士のアドバイスを受けながら交渉して、問題を解決する方が経済的である場合もあります。
すぐに事件の正式委任を求め、労働者との交渉に臨もうとする弁護士もいますが、かならずしも正解でないことがあります。
むしろ、普段から相談に乗ってもらい、会社のことをよく知っている弁護士に背後で相談にのってもらいながら、労働者とのトラブルを会社自らで解決することが最善であるケースもしばしばあるのです。
労働トラブルが起こったときは、弁護士に代理を依頼するのがベストとは必ずしも言えず、弁護士に今後の見通しを相談するのがベストです。